「象と耳鳴り」 恩田陸 | カラクリリリカル

「象と耳鳴り」 恩田陸

「夜のピクニック」本屋大賞受賞で最近テレビ等でも良く名前を耳にする恩田陸さん。
恩田陸さんの本は何冊か読みましたが、
私が一番好きなのはこの「象と耳鳴り」です。


著者: 恩田 陸
タイトル: 象と耳鳴り

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「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです」
退職判事関根多佳雄が立ち寄った喫茶店。
上品な老婦人が語り始めたのは、少女時代に英国で遭遇した、象による奇怪な殺人事件だった…
なにげないテーマに潜む謎を鮮やかな手さばきで解き明かす、
幻惑と恍惚、12編の本格推理コレクション
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恩田陸さんは、小説の最初の"引き"の部分・そして作中に流れるノスタルジックな雰囲気が素晴しい作家です。

しかし、"引き"の部分が素晴しすぎて、
その設定を生かしきれていなかったり、終始雰囲気だけで終わってしまい
常にストーリーのオチ(カタルシス)を求める私にとっては納得のいくラストではない場合が多々ありました。

例えば、彼女の著作「MAZE」では、人が入ると消えてしまう建物という"引き"で物語は始まります。
私は、そのSF的な雰囲気に期待して頁を読み進めたのですが、ラストは少々肩透かしを食らった気分でした。

けれども、この「象と耳鳴り」は
著者自身も「本格推理小説を書きたかった」と後書きで述べているように
パズラー作品集となっています。

パズラーとは論理的に謎を解決するミステリー小説であり
私が少々不満を持っていた「終始雰囲気だけで終わってしまう」という結末がありません。

また、この小説は安楽椅子探偵ものな為、
「本当は ちがうかもしれないけど こういう真相だったのであろう」という余韻に
恩田陸さんの持つ曖昧さが生かされ、幻惑的・神秘的な結末となっています。

この作品はミステリー小説を書くことによって
彼女の"引き"の上手さ、ノスタルジックな雰囲気を持つ文章、結末の曖昧さが
奇跡のようなバランスで保たれ、素晴しい小説として昇華された一冊です。